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2023.10.18

散文〜流れるがままに〜

言葉に触れたいという思いがよぎった。
だらっと足でも伸ばして、床にお腹をくっつけて、何時間も何時間も、
日が暮れることなども気にしないで、
ただダラダラと本を読んでみたいと思った。
それは、一昨日の奈良からの帰路、渋滞を抜けて車が再び走り始めた時のことだ。
窓を開けて、右腕を窓の外に出して風を受けて、
高速道路の上、ただただぼんやりと行く道の先を見つめながら感じた感情。
遠い遠い世界へ消えて、
深い深い、洞穴のようなところへと隠れて、
誰にも知れず、誰にも見つからず、
ずいぶんと出てこないで過ごすような、
そんな日常をしてみたいと思ったのだった。


今回はずいぶんと長い旅だったように思う。
まずは、出雲へ。
車に機材やグッズ、10日以上もの着替えのキャリーケースを載せて向かった。
車の2列目にはポールをうまくかけて、
そこにハンガーをかけて、着替えの羽織ものやキャップなんかをつるしたりした。

自分の移動の旅は、流れるがままだ。
計画していたところで、渋滞なんかもあって、
その通りにはいかない。
行き着くまま、そこで眠ることも多々。
コンビニの横の駐車場が空いてりゃ、ラッキー。
その駐車場に車を停めて、空き日は缶チューハイを片手に街をほっつき歩き、
自分にとってはいろいろを感じたり学んだりしながら、
時に気になる立ち飲み屋みたいなところに飛び込み酒を飲み、
そのうち「きっと今日も記憶ないだろな」とか思いながら車に乗って、
そこで眠る。
隣がコンビニだから、トイレに行きたくなれば、そこに行けばいい。
帰り道、あたたかな月や星でも顔を出してくれていたら、
それもまたラッキー。
ここにいるよ、ここで生きてるよ・・なんて語りながら、
優しい気持ちで眠る。
そうそう、
誰にも見つけられない森や路地裏の片隅で、静かに目を閉じる野良猫のように。


旅中の店や、
こうして帰ってきた日常に在る日々の中、
「あの人はこうらしいよ」とか、「最近こんなんなってるよ」なんて会話も耳にする。
自分にとっては、どうでもいい。
社会の仕組みの中に生きてる人間としては知っておいたほうがいいこともあるみたいだけれど、
どうでもいいんだ。
輪の中に人が増えれば、社会ができる。
そして、摩擦や傷つけ合いや陰口や嫉妬や貶め合いや欲望や・・・
そんなざわめきから離れて、
できれば、
澄んでいたいなぁとも思う。
澄み続けるには、社会から離れたところにでもいかなきゃならないのか。
耳や目や感覚がざわめきに触れないように、
うまくスィッチを切りながら生きていくのもありかもしれない。
とにかく、ウンザリはごめんだ。


旅中、
深夜、ふと目が覚めた時に、
水銀燈の灯りがフロントガラスに差し込んで、
それはとてもきらきらと綺麗で、
その光が、少しだけ、ブランケットにかくれた自分の頬を照らしたりもした。
幸せな場所で今眠っているなぁと何度か感じた。


そういえば、
出雲は、相変わらず、綺麗な綺麗な場所だった。
金色に輝く畑が広がっていた。
何千年生きてるんだろう、山々たちは寡黙に悠々と僕らを見下ろしていた。
空には藤棚のように雲が群れていて、
その下で、波音が静かに戯れていた。
おかしたくないな、おかされたくないな、
この綺麗な場所を・・と思った。
自分もだけれど、
感じることや感じようとする心をなくして、
知らないうちに人は汚れていく。
空も川も山も、それを教えてはくれない。
もしかしたら、綺麗なあの人も教えてはくれない。
「きみはなくしてしまったね」と言ってはくれない。
綺麗な風景を忘れ朽ちていく姿を見られているだけだ。
なぜか。
生きるのは、僕ら自身だからだ。
そう生きる姿を晒してるのは、きみ自身でしていることだからだ。
誰かが「そうしなさい」と僕らを汚していってるわけじゃない。

神在月。
かみありづき。
今回の出雲の滞在中は、そんなふうに呼ばれていた月。
日本中からたくさんの神様が出雲にきていたみたい。
すれ違ったり、見られていたかもしれないなんて思ったりもする。
次神様と会う時は、なにを話せるか。


さて、
旅中はいろいろあった。
ひとつひとつの風景を思い出せば、
いろんな言葉と思いが溢れる。
無理矢理に言葉にすることもありだけど、
なんか、そんな気分にもならないか。
きっと、感じた感情と、それに寄り添う風景は、
今日から、明日から、
その中のふとした時に、
「で、今、きみは?」と問いかけてくるように浮かんでくるんだと思う。


奈良からの帰り道、
高速道路に入ったすぐのへん、
窓を開けて走ってると、虫の音が聞こえた。
秋なんだなぁと思った。
ぼんやりとした日差しは、とても気持ちよかった。
風も。
洗われるとは、ああいう気持ちだろうか。
意思に関係なく、
世界は、僕を0に戻すために、僕を洗ってくれるように感じた。
なぜか、その時か、
「音楽しかやってこなかったもんねー」という、
前日の楽屋でイズミちゃんが呟いた言葉が
ふっと頭をよぎった。
そうだね・・と、
車中の椅子にもたれて、自分も声に出して呟いた。
すぐに風に消されたけれど。


今日は早起きをした。
来週の音楽祭の資料提出のためのコピーをしにコンビニに行って、
さっき帰ってきて、それをメールで送った。
パソコン前、
なんとなく、旅中に録音した歌の破片たちが聴きたくなって、
それらを聞きながら、
歌詞には到底なってない鼻歌に乗っけられた言葉たちを文字にしながら、
いつのまにか、
ブログでも書こうかなと、
こうして、言葉書いている。

流れるがまま。
旅のように、か。
こんなこと書こうかなぁと思っていても、
そうはならず、
あっちへいったりこっちへいったりと、
言葉は泳いでいく。
まったく、

日々も、思いも、そんなもんだ。
だから・・いや、
だけど・・か、

正直にやっていこう。
自分に。

いらんもんはいらん。
むかつくもんはむかつく。
せつないものはせつない。
やりたいことはやってみて。

どこを見て生きてくかを決めるのは、自分だから。
どう生きてみたかを残すのは、自分だから。